みなさんこんにちは。映像字幕翻訳者のNonaといいます。『字幕の世界へようこそ!』では、普段私が見ている映像作品から、翻訳者の視点で「すばらしい!」と思った字幕を紹介していきます。英語や字幕翻訳を学習中の方に楽しく学んで頂けたら嬉しいです。
原文の意味を少し(ときには大胆に)意訳をしているけど、その状況に最もふさわしいセンスがキラッと光る字幕を、一緒に楽んでいきましょう。
さて、今回はNETFLIXオリジナル映画「フォーリング・フォー・クリスマス」から。この季節にぴったりのラブコメ映画です。これぞラブコメ!といった内容で、心がぽっとあたたかくなります。主演のリンジー・ローハンもゴージャスでかわいくて、ぴったりの配役です。字幕翻訳は小出剛士さんが担当されています。
ピックアップする字幕は映画の冒頭に登場します。主人公のシエラは社長令嬢でワガママし放題。この日は、交際中の人気ブロガーに連れられて雪山へ。スキーなんてできないと文句をいうシエラを、彼は笑います。目的は、国内屈指の山スキーヤーがすべったのと同じ山に来て、ブログに載せたかっただけなのです。
そして、問題のセリフです。
「It looks amazing.」
非常にシンプルなセリフですね~。広大な雪山を見て唖然とするシエラの横で、実に満足そうな顔で延々と続く雪景色を眺めています。実際に話している時間は、なんと約0.90秒! 使用できる文字数は3~4文字ということになります。なかなか厳しい文字数ですが、セリフの内容と状況、そして恋人の職業を考えれば……そこまで悩まずにすみそうですね!
では、早速やってみましょう!
「最高だ」
そうですね、可もなく不可もなし。ただ、これでは恋人が純粋に雪山を楽しんでいるようにも聞こえてしまいますね。きれいな雪景色を見て「最高だ!」と楽しんでいるようです。実際は、この段階では自分のブログのこと以外は考えていない男ですから、もうちょっと軽い感じがほしいところですね。
「いいぞ」
なんとなく、「最高だ」よりは何か別の目的があるんだぞ、という雰囲気はだせていますかね? しかし、やはり「何がいいのか」が明確に伝わらないので誤解を招きかねない字幕です。これから雪山を登るのを楽しみにしているのかな?と思ってしまう視聴者もいるかもしれませんね。
「イケてる」
うーーん、少しだけ本意に近づいたような? でも、いまどき「イケてる」って……ですよね。あと、どうしても下品な表現になってしまうような気がして、個人的には『品のないキャラクターが品のない場面で品のないセリフをいったとき』に限定して使用するようにしています。(あくまで私個人の感性なので、感じ方は人それぞれかと思いますが!)
さあ、いよいよ実際の字幕を見てみましょう。
「映える」(ばえる)
あーーーブロガーだもんねー—-!ってなりますよね。シチュエーションにも、話者の個性にもピタっとはまる字幕ではないでしょうか。ブログいのちな恋人が、まさにいいそうな字幕になっていると思います。
ひとつ気になるのは、「映える」は現代の流行語なので数十年後にこの映画を見た若者が「映えるってなに?」となってしまいかねないところです。世間で一般的に使用されるようになった「ヤバイ」や「キモい」は、字幕でも頻繁に見かけるようになりましたね。あまり意識されていないかもしれませんが、こうした流行語を字幕などの翻訳もので使用するのはとても勇気がいることなのです。言葉が古すぎても新しすぎてもダメなんですね。あらゆる言葉や表現に気をつかい、アンテナを張るのも翻訳者の仕事のうちなのです。
今回は、若い方こそ実際の字幕に早くたどりつけたかもしれませんね! 私は「映える」という言葉をナチュラルに使用していなかったので、字幕を見たときは「おおおおお~~!!」と思いました。ちょっとふざけながら「映える~」とかいうことはあったんですけど。アンテナの張り具合が甘かったようです。
このあとは、シエラが頭を打って記憶喪失になったところで1人の男性と出会い……とベタな展開になりますが、ココア片手に楽しめる、かわいらしい映画です。ぜひ、みなさんも最高のクリスマス気分を味わってくださいね!
みなさんは、どんな字幕をつけましたか? 「これこそは!」という名訳を生みだした方は、ぜひTwitterで引用リプなどをつけて教えてくださいね。
それでは、また来月のトピックをお楽しみに!!
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