みなさんこんにちは。映像字幕翻訳者のNonaといいます。『字幕の世界へようこそ!』では、普段私が見ている映像作品から、翻訳者の視点で「すばらしい!」と思った字幕を紹介していきます。英語や字幕翻訳を学習中の方に楽しく学んで頂けたら嬉しいです。
原文の意味を少し(ときには大胆に)意訳をしているけど、その状況に最もふさわしいセンスがキラッと光る字幕を、一緒に楽んでいきましょう。
さて、今回はNetflixオリジナル作品の「FUBAR」のシーズン1、エピソード4より。字幕翻訳を担当されたのは浦野文枝さんです。
シュワちゃん演じるルークは、表向きはジムを経営する普通の中年男性ですが、家族さえ知らない秘密の顔がありました。実は彼、CIA工作員だったのです。ある日、愛娘のエマもCIA工作員だったことを知ってしまいます。お互いにウソをつかれていたと落胆し、特に娘のエマは父を軽蔑するように。ところが、上司の命令により2人で同じ事件を解決するはめになります。しかしそこで、捜査に必要なものを盗むためにハニートラップを仕掛けていたエマが、ターゲットに疑われて銃を向けられます。音声だけ聞いているパパシュワちゃんは大慌て。一方、娘のエマは落ち着き払っていて余裕そのものです。ハニートラップの真っ最中だったため、エマは下着姿で武器も持っていません。そのため気弱なターゲットは、なんでそんなに冷静やねん!と逆にあわあわしてしまいます。
実際の台詞がこちら。
「I’m the one with the gun.」
直訳すると「銃を持ってるのは俺だぞ」ですね。エマが冷静に服を着だして、「そんなに震えた手じゃ、どうせ失敗する」と言われて、いやいや俺のが優勢なんですけど!と反論したわけですね。エマがCIA工作員だとは思っていないので、当然と言えば当然の反応ですね。実際に話している時間は1秒未満なので、使用できる文字数は4~5文字くらいでしょうか。では早速やってみましょう!
「銃がある」
見ればわかりますって感じですね。それに「そんなに震えた手じゃ失敗する」と言われて「銃がある」は会話が噛み合っていません。この状況で優勢なのは自分なんだぞ、と言い返している意図がちっとも伝わらないので、これでは名字幕どころか字幕として成立していません。
「舐めるな」
会話は噛み合いましたが、やはり意図が伝わりませんね……。ターゲットがやや気弱な男性であることを考えると、台詞のチョイスも間違っているように思えます。エマは、この男性が絶対に引き金を引かないと確信しているからこそ落ちついているわけです。または、撃ったところで手が震えているので当たらないだろうと踏んでいるわけです。それだけ銃の扱いに慣れていない人物だということなので、緊張しているこの場面には、ちょっと強気すぎる字幕ですよね。それに、不必要に原文から離れすぎています。これでは翻訳ではなくて「創作」になってしまいます。
「俺が優勢だ」
いっそのこと、はっきり言わせてしまえ作戦です。とはいえ、非常に固い字幕になってしまいましたね。言いたいことはピンポイントで伝わりますが、なんとなく味気ない字幕で退屈です。銃を向けて「俺が優勢だ」なんて言う人、たぶんいないですよね。
では、いよいよ実際の字幕を見てみましょう。
「丸腰だろ」
ああ、そうきたか!!って思いませんか? 「おまえ丸腰のくせに、なんでそんなに強気なんだよ」って言いたい気持ちがよく表れていますよね。原文では「自分が銃を持っている」と言っているのに対して「おまえは丸腰だろ」と視点を変えているわけです。これはもう脱帽ですね。すばらしいです。
厳しい字数制限のなかで、発想を転換することでわかりやすい字幕になっています。これは、本当に勉強になります。原文にとらわれすぎず、かといって離れすぎてもいない、すばらしい訳ですよ。キレッキレすぎて、ちょっとだけ放心したくらいです。個人的にとても衝撃をうけた字幕のひとつです。作品もコメディタッチで、気軽に楽しめるドラマでした。次のシーズンが楽しみです♪
みなさんは、どんな字幕をつけましたか? 「これこそは!」という名訳を生みだした方は、ぜひTwitterで引用リプなどをつけて教えてくださいね。
それでは、また来月のトピックをお楽しみに!!
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